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2022.09.25

コロナ感染のち、舌の異常

コロナ感染(COVID-19)が世に出て2年半が経ちました。ウィルスの変異は続くものの、その特性は概ね把握されつつあるのか欧米では共存・共生の生活様式が定着し諸規制が撤廃されつつあり、日本にもその流れが届きつつあります。国内での規制緩和にはまだ議論があるでしょうが、感染し回復された方も散見されてきており、このウィルスが「common disease(一般的な病気)」となり「common cold(風邪)」に近づきつつあるのかもしれません。ただ、インフルエンザのような専用治療薬が汎用化していない以上は高齢者や免疫弱者は重症化の危険を伴いますので、引き続き感染予防に努めることは大切です。

患者さんの中にもコロナウィルスに感染してからの不調を訴える方も増えてきており、その中でも特に舌の異常である「味覚異常」と「舌の違和感」を訴える方が多い印象です。

「味覚異常」は舌そのものの味覚を司る細胞がやられてしまうこともありますが、嗅覚が障害を受けて味覚が鈍ってしまうということもあります。味の決定は実は嗅覚に頼っているところが多く特に口から鼻に戻ってくる風味がなくなると味がおかしいと錯覚してしまうとも言われております。人が鼻呼吸であることを考えると、飛沫によりまず鼻で感染がおこり、ウィルスによる嗅覚障害が先行して味覚が鈍っていることも味覚異常の原因として重要です。また、コロナ等ウィルス感染は全身疾患ですので倦怠感や食欲不振で低栄養が続くこともあります。このことが必要微量元素の一つである亜鉛の不足をもたらし、これが味覚障害につながることもありますので、感染後より食が細くなった方は亜鉛不足も考えなければなりません。

「舌の違和感」というのは、細かく聞くと「味覚はあるが舌が何かおかしい」または「舌が痛い・ピリピリする」という訴えで来られることが多い印象です。病み上がりという言葉があるように感染後は免疫が正常化しておらず違うウィルスに感染したり細菌による混合感染を引き起こしたりしやすいですのでそこで真菌(カビ)などの通常の免疫ではかかりにくいような舌の感染症を引き起こしてしまう可能性もあります。さらには舌全体が焼けるように痛くなる口腔内灼熱症候群(Burning Mouth Syndrome)やその一つのタイプとされている舌痛症がコロナ感染をきたした患者さんによく見られているという報告も最近上がってきております。これらは脳や脊髄に原因がある顔面痛の一種で、舌に痛みをきたしうる様々な病気がないことで診断される病気です。言いかえれば、病態として不確定なことが多く心身症的な側面があるのですが、ウィルス感染後に抑うつや精神不安を訴える方も多く、舌の違和感に何らかの影響をきたしている可能性は高いと考えられます。

これら舌の異常はウィルス感染全般に共通することでもあり、コロナパンデミックが世に出る前にもそのメカニズムは言われておりました。ただ、コロナ感染でより多く事例が上がってきていることはこのウィルスの感染力や重症化のリスクが従来の風邪ウィルスより高いから、すなわち人類が新たなウィルスに対して免疫を持っていないことが要因なのでしょう。しかし、共存するために新たな免疫を獲得し、それによる後遺症についても一つ一つ紐解いていかなければ前へは進めません。新たな知見に期待しつつ可能な限り臨床の現場で生かせていければと考えております。

2022.05.25

耳の不調と睡眠

コロナパンデミックの中、ライフスタイルも変化し屋内時間が増えるなどして生活のリズムが変わった方も多くおられると思います。生活リズムが変わり在宅ワークが増えるなどすると遅寝遅起きの習慣から睡眠のリズムも変化し、それによる体調不良などを訴える方も日常診療の中で少なくない印象です。

耳鼻科領域での体調不良の一つにめまい・ふらつきがあり、特に平衡機能障害と睡眠の不調の関係は近年注目を集めております。というのも耳鼻科受診しためまい患者さんの60%以上が何らかの睡眠障害を持っているとの報告もあり、睡眠が平衡機能の維持にいかに深く関与しているかが伺えます。事実、脳幹にある睡眠と覚醒を司っている部位には耳の平衡を司る三半規管からの神経信号が入っていることが分かっており、「平衡の不調」が「睡眠の不調」に繋がる可能性が指摘されています。具体的には、三半規管のめまい疾患の有名な一つ、メニエール病を患っている患者さんを睡眠検査したところ、正常の方と比べて深い睡眠(いわゆる熟睡)が欠落していることが分かっており、その可能性を裏付けるデータとなっております。逆に、「睡眠の不調」が「平衡の不調」をきたすこともあり、具体的には、睡眠障害の一種である睡眠時無呼吸症候群の診断を受けた患者さんが、慢性的な低酸素状態が続くことで中枢(脳)の不調や末梢(三半規管)の不調をきたし平衡機能の障害を伴うことも近年開発された精細なめまい検査の解析から判明してきております。

もう一つ、耳鼻科外来でよく遭遇する睡眠障害関連疾患に耳鳴りがあります。概ねの訴えは「耳鳴りのせいで眠れない・・」というものですが、耳鳴りはその原因が中耳炎など治療可能な病気によっては消失させることも可能ですが、多くは神経レベルの難聴など根本治療が困難な疾患が背景にありますので完全消失は困難です。それゆえに付き合っていく、鳴っているけど気にならなくしていくという考え方が大事なのですが、睡眠障害があるとそもそもその考え方に達することが困難となります。正解は、「耳鳴りのせいで眠れない」のではなく、「眠れないので耳鳴りが大きくなる」となりますので、まずは不眠治療に専念すると言うことになります。

睡眠障害の治療ですが、現在はその専門である日本睡眠学会から一定の治療基準も示されております。2013年の国際基準で睡眠障害の原因は大きく7つに分類(原発性不眠症・睡眠呼吸障害・概日リズム調節障害・むずむず足症候群・睡眠時随伴症・過眠症・睡眠衛生不良)されており、治療の第一は睡眠薬の使用ではなく、その原因をしっかり見据えた上での睡眠衛生指導といういわゆる生活指導的な治療となっています。投薬が必要な場合も第一選択は非ベンゾジアゼピン系という、従来日本で大量に使用されてきたベンゾジアゼピン系ではない投薬となります。この背景には、いまだ日本で多く処方されているベンゾジアゼピン系睡眠剤の依存性の問題や体内時計を狂わす懸念や認知症リスクを高める懸念があるものと考えられます。近年は、従来の睡眠剤とは異なる「自然な眠りを誘導する睡眠剤」も出てきており、治療薬の幅も増えてきておりますので、睡眠剤の適正かつより計画的な使用により睡眠障害が改善されることが示されております。

睡眠障害はその影響が全身に及びます。耳鼻科領域においても、特にめまい・耳鳴と睡眠障害が併存しているケースでは睡眠障害の鑑別は治療方針の要ですので、睡眠障害を専門とする医師との連携のもと適切な治療を行うことが症状改善に繋がると考えております。

2022.01.20

閉じない耳管、開かない耳管

『未知の臓器が喉の奥から発見!』とネットニュースにもなりましたが、2020年にオランダのがん研究施設のチームが喉の奥ではなく鼻の奥の耳管という耳と鼻を繋ぐ管の周囲に新たな分泌腺(唾液腺?)が存在していると発表しました。今までの解剖学の教科書にも記載されていない知見であり、鼻の奥の湿潤や嚥下に関わっているのではと推測され、さらには耳管機能障害などの病態にも関わっている可能性もあるとのことです。

耳管機能障害とは鼓膜の奥の中耳の圧交換を担っている耳管がうまく働かず、中耳の圧を一定に保てない状況に陥ることです。通常耳管は閉じており嚥下(飲み込む)時に開き圧交換が行われるのですが、うまく働かない病態として嚥下時に開きにくくなっている状態(耳管狭窄症)ないしずっと開いたままで閉じない状態(耳管開放症)が挙げられます。耳管狭窄症の原因は鼻の奥に腫瘍や顕著な後鼻漏(鼻の奥への鼻汁の垂れ込み)・炎症が存在することで、具体的にはアデノイドという鼻の奥の扁桃組織や副鼻腔炎・アレルギーによる慢性炎症によるところが大きく、アデノイド切除や内服による消炎で治癒することが見込めます。それに対して耳管開放症はその原因が耳管周囲の脂肪減少や血流低下によるところが大きいとされ、体重減少や妊娠に伴って発症しやすいと言われています。加えて、耳管開放が重度だとなかなか戻りにくく、完治に至りにくい病気です。

加えて耳管開放症は、完治しにくいがゆえに症状などの持続によって二次被害をもたらしてしまいます。その一つは「自声響音」といって自身の声が耳管開放のある側の耳に響いてしまう状態で、この症状が持続すると喋る度に声が響くために喋りづらくなり、重度の場合は会話がつらくなり引きこもりや鬱へと繋がる可能性もあります。他に、症状ではないのですが耳管開放症の方に多く見られる「鼻すすりの習癖」というのも二次被害をもたらします。鼻をすすることで耳管は閉じる状態に向かうため、耳管開放症の方はよく無意識に鼻すすりを行ってしまいます。鼻をすする行為は中耳の圧を陰圧にする(圧を抜いてしまう)行為になりますので、継続的な鼻すすりは中耳の慢性的な陰圧状態を生んでしまいます。この状態が続けば鼓膜が凹んだり癒着したりする中耳炎(癒着性中耳炎や真珠腫性中耳炎)となり、手術以外では治癒しない病態を作ってしまいます。

このような厄介な耳管開放症ですが、全く治療法がないわけではありません。内服で耳管周囲の血流を増やして耳管粘膜を膨張させる方法、鼓膜にチューブ留置を行い中耳の圧を抜くことで鼓膜の凹みを避けたり自身の声の反響を和らげる方法などがあります。ただ、これらの方法でも約5割の人にしか治療効果はないという現状であり、まだまだ完治困難な病気ですが、新たな治療法の開発も期待されております。最近では「耳管ピン」というシリコン性のピンを鼓膜経由で開放耳管に挿入することで、症状を緩和させる手術加療が国内で保険適応になっております。適応は重症耳管開放症の方ですが、従来の治療で効果の薄い方の一助となることが期待されています。

適切な治療を行うにはまずは正確な耳管機能障害の診断が必要です。耳管機能検査機器は当院でも導入しており、より正確な耳管機能の評価を行っておりますので、耳管機能障害かもと思われる方は一度ご相談ください。

2021.09.16

副鼻腔炎 いま むかし

「はな垂れ小僧」という言葉があるように、昔は青鼻を垂らしている子供も多く、服で鼻を拭くため袖がカピカピになってしまう子供も多くいたように記憶しています。青鼻の原因の多くは感染からの修復過程の状態で、通常の免疫であれば自然治癒することが多いですが、長期間続く病態は持続的な細菌感染が存在し、3ヶ月以上続けば慢性副鼻腔炎でいわゆる「ちくのう症」となります。

最近では青鼻を垂らしている子供も随分見なくなりましたが、これは慢性副鼻腔炎が減ったからであると言われています。この傾向は成人にもあり、その背景には衛生状態が良くなったことや医療の充実によって重症化の予防がなされてきたことが大きいと思います。ただ、近年では従来の慢性副鼻腔炎に代わってアレルギーに起因し、喘息や鼻茸を合併しやすい好酸球性副鼻腔炎と呼ばれるものが増えてきており、衛生状態や医学の進歩に関わらず、アレルギー疾患が耳鼻科領域でも一昔前に比べると増加していることが関係していると言われています。

アレルギー疾患の増加の要因に関しては、諸説ある中で「衛生仮説」というものが近年注目されており、食を含めた生活環境の変化や衛生状態が良くなったことで逆にアレルギー反応が強く出てしまうというものです。やや専門的になりますが、アレルギーというのは白血球の一種であるTh1細胞とTh2細胞のバランスが崩れることで引き起こされるとされており、Th2細胞が増えるとアレルギー反応が強く出るとされております。Th1細胞は細菌感染の時に活躍するために、細菌感染の時はTh1細胞が活躍し、その反面Th2細胞が抑えられてアレルギー応答が出にくくなります。逆に言えば衛生状態が良くなり、細菌感染が抑えられた昨今の状況下ではTh1細胞の出番が少なく、Th2細胞が優位に立つためにそのバランスが崩れてアレルギー反応が強く出てしまうというわけです。

好酸球性副鼻腔炎もTh2細胞が関係するアレルギー主体の副鼻腔炎なのですが、喘息や鼻茸に加えて、中耳炎も合併しうる病態で、「はなづまり」「息苦しさ」「臭わない」「聞こえない」と四重苦で、重症の方は生活の質が大きく低下してしまいます。抗生剤やステロイド治療が基本治療となりますが効果は薄いことが多く、手術加療で鼻茸や病的粘膜の清掃を行えば鼻洗浄やステロイド点鼻薬等での管理である程度コントロールは可能ですが、術後の定期的なメンテナンスを怠るとまたすぐ鼻茸が再燃するという厄介な病態です。このような経緯からこの病気は2015年に国の指定難病となり、分子標的薬を代表とする新たな治療薬の開発も進んできております。

分子標的薬というと昨今では専ら癌治療方面での活躍が華々しいですが、簡単に言えば病気の原因や悪化因子となる分子(抗体やタンパクなど)を標的としてピンポイントに攻撃し、そこに関連する生体応答をブロックする治療です。好酸球性副鼻腔炎においてもアレルギーの免疫機構の中で特に炎症を強く引き起こすような抗体の存在が解明されていますので、その抗体を押さえ込むような分子標的薬がでてきております。同じアレルギー疾患であるアトピー性皮膚炎や喘息においては、重症例においてはすでに先駆的に使用されており、安全性も含めて良好な結果を得ております。新しい治療ですので適応は限られますが、当院でも使用可能としており難治性副鼻腔炎患者様の一筋の光となればと考えております。

2021.05.22

耳鼻科遺伝子治療への道

Covid -19のワクチン接種が日本でも始まってきており、日本ではまず米ファイザー社製が導入されております。従来のワクチンは不活化ないし弱毒化したウィルスなどの病原体を体内に取り込む形でしたが、今回のワクチンはウィルスの遺伝情報を取り込む形です。さらに細かく言えば、ウィルス抗原を体内に作り出すために『DNAを介さない=人の遺伝子に組み込まれない』のがmRNA方式(米ファイザー社や米モデルナ社など)で、『DNAを介する=人の遺伝子に組み込まれる』のがアデノウィルスベクター方式(英アストラゼネカ社や米ジョンソンエンドジョンソン社など)となっております。

こう聞くとアデノウィルスベクターの方に副作用の懸念が多くなるのは仕方ないですが、既にウィルスベクターワクチンとしてエボラ出血熱へのワクチンとして存在しており、海外では承認されております。ウィルスベクターとは、ウィルスが人に感染した時にその遺伝子を人の遺伝子に組み込む特性を用いて作成されたもので、毒性や増殖能力が無いように改変されたウィルスを用いた『遺伝子の運び屋(ベクター)』という意味です。ウィルスベクターはその特性から、望む遺伝子を生体内に入れて病気を治すという遺伝子治療の分野でも、先天性疾患の治療(生まれつき欠損している遺伝子を入れる)や癌の治療(がん抑制遺伝子をがん細胞に入れる)などで実用化されています。ただ汎用化(一般的に広まる)には安全性の検証はまだ十分とは言えないようで、欧州に続き日本でもアストラゼネカ社製の接種が見送られたことを考えると、改良を含めもう少し汎用化までには時間がかかるかもしれません。

ただ、ウィルスベクターの汎用化が可能となればいわゆる遺伝子治療の分野がより身近になる可能性があります。様々な医療の分野で病気のメカニズムが遺伝子レベルで解明されつつある昨今、先天性疾患やがんのみならず、耳鼻科領域でも不治の病とされてきた病にも遺伝子治療のスポットライトが当たっております。

近年の報告では、加齢性難聴は内耳(聞こえの神経につながる部分)のGAP結合(内耳の環境を整える重要な分子構造)の崩壊がその一因と言われており、それにより聞こえの細胞がダメージを受けて難聴を引き起こすと言われております。このGAP結合の崩壊を修正・安定化するような遺伝子も明らかになってきており、それらを内耳の細胞に組み入れることで加齢性難聴の予防や改善につながる可能性が報告されております。

また臭いの領域でも、絨毛(臭いの神経細胞上にある小器官)が正常に形作られないことで起こる難治性嗅覚障害の一種において、絨毛の形成に関わるタンパク質(IFT88)コードする遺伝子を嗅覚の細胞に組み入れることで嗅覚機能の改善が認められたことが動物実験の上で報告されております。

安全性の問題は乗り越えたとしても、組み入れた遺伝子がずっと働き続けるのか等まだまだ乗り越えるべき壁はあるかと思いますが、歴史を顧みると、奇しくも技術革新は戦争など特殊な環境のもとで躍進してきました。コロナ禍という特殊な環境下で医療の技術革新がより進むことによって、諦めていた病気が癒える日が近づくかもしれません。

2021.01.21

扁桃腺、とったら風邪をひきやすい?

厳しい寒さが続く中、例年この時期はインフルエンザの患者さんが多いのですが、今年はコロナの影響でマスクや手指消毒が習慣化している影響でしょうか、インフルエンザは大幅に減っている現状です。インフルエンザやコロナなどはウィルスの感染ですが、同じ発熱や喉が痛くなる症状をもたらす細菌の感染に扁桃炎があります。口の奥の両側にある扁桃腺の中で細菌が増殖する病気ですが、悪化すると細菌が喉の深部に入り、さらに重症化すると血液中に細菌が入り込み致死的な病態になりうることもあります。

抗生剤の恩恵がある現代では扁桃炎で重症となることは稀になりましたが、抗生剤が行き渡る以前は重症の扁桃炎の治療には外科的切除が施されていました。その歴史は古く、紀元前1世紀の古代ローマ時代には扁桃腺手術の詳細が記されております。日本でも20世紀初頭から半ば過ぎまでは、子供は扁桃腺が大きい(扁桃肥大)だけでとった方がよいとされていた時代があり、耳鼻科外来で椅子に座ったまま扁桃腺をとる手術が日常的に行われており、高齢者の方で幼少期にその経験のある方は苦い思い出として残っているかもしれません。扁桃腺は局所麻酔手術だと、咽頭反射(えずき)のコントロールが難しい上に圧迫止血が十分に行えないために安全な手術を行うことが難しく、現在では全身麻酔下での手術が一般的となっております。

子供の扁桃腺手術の適応ついては現時点で基準は大きく2つあり、1つは繰り返す習慣性の扁桃炎があること、もう1つは扁桃肥大による重症の睡眠時無呼吸があることとなっております。習慣性の扁桃炎に関しては、我が国では年3−4回繰り返す扁桃炎とやや幅を持った感じで言われておりますが、米国ではより細かく規定されており、定期的な改訂も行われ、2019年の改訂版では手術の前にもう少し経過観察を要する方向へと切り替わってきております。さらに、同じ頃に扁桃腺免疫の常識に一石を投じる報告がオーストラリア・デンマーク・米国の共同研究から発表されており、その内容は、子供の時に扁桃腺をとったグループがとっていないグループに比べて上気道感染(いわゆる風邪)にかかるリスクが約3倍増加するというものです。長年、扁桃腺は子供の頃にとってもその後の免疫機能に異常をきたさないとされておりましたが、術後長期間にわたって手術の影響を追ったデータが存在しておりませんでした。今回この報告が初の長期データ(術後10年から30年の経過を追ったデータ)をまとめたものとなり、長い期間で見た場合、扁桃腺をとることが将来の免疫機能の低下に繋がる可能性が示されたということになります。本当にその子供の扁桃炎が習慣的なもので治りにくいものなのか、その見極めをもう少し慎重にすべきであるということになります。

もう1つの手術適応である扁桃肥大に関して、よく保護者の方から「どうして起こるのか?」という質問をお受けします。経験的に両親からの遺伝の可能性は言われてきておりますが、最近の知見ではモラキセラ・カタラーリスという細菌が扁桃肥大に寄与していること、特定の遺伝子(Beta-defesin 1)が扁桃肥大に関与している報告があがっております。総じて、扁桃肥大は遺伝的な側面はあるものの、適切な消炎が大切と考えますので、扁桃腺内に細菌感染の基地(コロニー)を作らせないために、炎症を長引かせないよう早めの対応が要です。

2020.09.10

耳鳴(じめい)の理

人は太古の昔より耳鳴りに悩まされており、最古の記載は紀元前1500年頃のパピルスに書かれた古代エジプトの医書に見られるとも言われております。当時は耳鳴りを有する耳は「魔女に取り憑かれた耳」とも言われており、葦の茎を用いて直接耳の中に樹液・樹脂・ハーブなどを混ぜた特性オイルを注入して治療されていたようです(かなり痛そうです・・)。またラテン語の繰り返す音を意味する「tinnire」が現在の耳鳴り(tinnitus)の語源という説もあるように、いかに人類がこの繰り返す耳の中で鳴る音に悩まされてきたかということですが、現在に至っても耳鳴りを完全に消すことは難しく、「耳鳴りの治療薬を開発したらノーベル賞クラス」と言われるほど多くの人々はこの耳鳴りに苦しんでおられます。

腫瘍や炎症などのケースを除いて多くの耳鳴りは難聴を伴っており、鼓膜の奥の内耳という場所に存在する音受容器や脳の聴覚を処理する聴覚野において、その刺激が無くなることで耳鳴りは起こると言われています。一般的に、年齢による難聴の進行や騒音による難聴は内耳の音受容器の細胞が変性・消失することよって起こりますが、内耳で障害が起こると当然脳にも刺激が届かなくなるわけで、その際に刺激を失った脳の聴覚野にある神経細胞が刺激を求めて非聴覚野へ神経が伸びていくことが耳鳴りと深く関係していることが最近の研究で分かってきております。

このメカニズムを逆にとれば、脳の聴覚領域に入ってこなくなった音刺激を、再度入れてあげれば、脳の神経細胞は刺激を求めて非聴覚野へ神経を伸ばさないようになるというわけです。事実、補聴器やTRTTinnitus Retraining Therapy:特定の音のみを与え続けることに特化した耳鳴り順応療法)、さらには人工内耳といった失われた音を取り戻す人工聴器など耳に音を入れる状況が、耳鳴りを軽減したという報告が多数あります。米国の耳鼻咽喉科学会が長年の耳鳴り治療の莫大なデータをまとめ、2014年に治療に対する一定の評価を示しており、そこでも難聴を伴う耳鳴りに対しては補聴器は推奨治療として、TRTを含む音を入れる「音響療法」は一定の効果のある治療として評価されております。補聴器や「音響療法」の他には精神・心療内科領域の治療であるカウンセリングや耳鳴りへの注意をそらすトレーニングを含む「認知行動療法」も推奨治療とされており、「生活に支障が出る状況」を「生活に支障が出ない状況」にするという意味でも効果は高いとされております。

その他の治療、いわゆる内服を含む薬物療法やマッサージなどは残念ながら科学的根拠に乏しい耳鳴りの治療ということになります。ただ実際には、それらが効いたという方も少ないながらもおられますので一概に無効とは言えないのですが、近年の研究でそれらのメカニズムもだんだん明らかになってきています。一例を挙げれば、難聴を伴わない耳鳴りの一つに体性耳鳴(皮膚感覚並びに顎関節や首の筋肉の感覚といった体性感覚の不調による耳鳴り)と呼ばれるものがあり、脳幹(脳の中枢)にある体性感覚のコントロールセンターと聴覚の伝導を中継する部分との間で新たな神経の伸長が出来上がってしまうことで、耳鳴りが発生するメカニズムが言われてきております。こういうケースでは顎関節や頸部のマッサージで体性感覚のコントロールセンターに刺激を与えることが耳鳴りの抑制に有効であるという報告も上がってきており、マッサージも病態によっては有効といえる可能性を示しております。 

2020.05.13

ウィルス感染による嗅覚障害

世界的な感染の広がりを見せている新型コロナウィルス感染ですが、収束への糸口が見出せるように一刻も早い治療法の確立が待たれる現状です。治療法が確立していない状況では、できるだけ感染拡大を防止することが重要であり、当院でも可能な限り感染予防に取り組んで日々の診療を継続しております。

新型コロナウィルスの初期症状は一般的な風邪症状を呈しますが、中でも嗅覚障害(味覚障害)を呈することが多いことが報告されてきております。そういう背景もあり、嗅覚障害や味覚障害が生じた時は新型コロナウィルス感染の可能性も否定できないために、まずは7日間程度の自宅での隔離を行い、発熱・倦怠感・咳など追加の症状が出現しないかを観察していくことが感染拡大を抑える上で重要とされております。ただ、嗅覚障害の多くは副鼻腔炎やアレルギー性鼻炎に加えて一般的な風邪のウィルス(ライノウィルスやインフルエンザウィルスなど200種類以上)によって引き起こされますので、嗅覚障害を生じたことが新型コロナウィルス感染をすぐに意味するわけではありません。とは言うものの、その可能性はありますので落ち着いて慎重に追加症状の有無をしっかり見ていかなければなりません。

嗅覚を司る嗅細胞が存在するのは嗅上皮という部位で、鼻の奥深いところ(眉間の奥)にあり、臭いの分子が空気の流れに乗って嗅細胞に届かないと嗅覚障害をきたします。多くの嗅覚障害はこの病態、すなわち鼻の粘膜が腫れて嗅細胞までに空気の流れが届かない状態(副鼻腔炎・アレルギー性鼻炎・風邪)で起こり、この状態を呼吸性嗅覚障害といいます。それとは別に、嗅細胞そのものがやられてしまって臭いの分子が嗅細胞に届いてもその奥の神経(嗅神経)に刺激が行かないという病態もあり、これを神経性嗅覚障害といいます。神経性嗅覚障害は主にウィルスが嗅細胞に直接感染することや、ウィルスに対する体の免疫応答によって嗅細胞が障害されることによって起こるといわれております。

神経性嗅覚障害として多いのは感冒罹患後嗅覚障害と言われるもので、いわゆるインフルエンザ等の風邪症状で鼻が詰まっているので臭いがしないと思っていると、風邪症状が落ち着いて鼻が通り出しても臭いがしない状態が続くというものです。ウィルスによる神経毒性により嗅神経が障害されてしまうのではないかと言われており、新型コロナウィルスによる嗅覚障害もこの神経性嗅覚障害の一つと考えられております。

嗅細胞は嗅神経末端にあり、嗅神経は脳神経の一種です。脳神経の末端は通常一旦傷つくと元に戻らない繊細でナイーブなものなのですが、その中にあって嗅神経末端である嗅細胞は再生を繰り返すと言う特異な能力を持っております。故に神経性嗅覚障害になったからといって治らないと言うわけではなく、その半数位以上の方は完治もしくは改善に至るとされております。ただ、改善に至るには一年以上かかるケースも珍しくなく、再生された神経細胞がその機能を取り戻すためにはある程度時間を要するということだと思います。

ただ残念ながら、中には治療効果なく臭いが戻らないこともあります。しかし、昨今の再生医療の現場においては、元来再生しうる嗅細胞をターゲットとした研究も多く、iPS細胞などの登場で更なる知見が深まっている領域ではあります。そう遠くない未来に嗅覚障害克服の日が来ることを願いつつ、ただ、まずは新型コロナウィルス感染の収束がそう遠くない日に来ることを切に思います。

2020.01.19

花粉症とアレルギーコンポーネント

1月に入るとスギ花粉の飛散がぼつぼつ始まります。約4人に1人と国民病とも言われるスギ花粉症ですが、これは世界的にみると日本特有で、戦中の軍需利用で大量の木材を消費したために戦後にスギ植林を日本各地で行ったことがその一因と言われております。

鼻汁を訴える患者さんにアレルギー性鼻炎と言われたことがあるかを聞くことがありますが、「花粉症は言われたことがあるけどもアレルギー性鼻炎と言われたことはありません」という答えが返ってくることが時にあります。花粉症自体はアレルギー性鼻炎の一つで<季節性アレルギー性鼻炎>と言われており、それに対してハウスダストやダニなど1年を通して反応する鼻アレルギーを<通年性アレルギー性鼻炎>と言います。

アレルギー性鼻炎の診断は採血で行うのですが、アレルギー自体は抗原と抗体が反応して起こる免疫反応(抗原抗体反応)ですので、それぞれの鼻アレルギーをきたし得る抗原(ハウスダストやダニ、春のスギや秋のブタクサなど)に対して自身がIgE(アレルギーに関係する抗体)をどの程度持っているのかで重症度の目安となります。いわゆるRISTRAST検査と言われるもので、臨床の現場では約40年前から取り入れられております。RISTとは総合的な血中のIgEを測定するもので、アレルギー反応がどの程度体の中で起こっているのかを示します。もう一方のRASTとは各々の抗原に対してどれだけアレルギー反応が出ているのか(IgEが高いのか)を示します。

近年はさらに抗原の中でもよりミクロなレベル、すなわちIgEが結合するタンパク部分の解析が進んできており、IgEが直接結合する部分(タンパク)をアレルゲンコンポーネントといいコンポーネントでアレルギー反応を捉えていく時代になろうとしております。言い換えれば食物アレルギーやアレルギー性鼻炎はそれぞれの食物や花粉に対して起こっているというのはやや粗い理解であり、それぞれの食物や花粉がもつもっと詳細なコンポーネントの部分でアレルギー反応を理解していこうというものです。この理解が医療の場で応用されているのは主に食物アレルギーの分野ですが、耳鼻科領域でも近年は「花粉食物アレルギー症候群(PFAS)」や「口腔アレルギー症候群(OAS)」と言う概念で取り上げられております。

PFASOASの代表例の一つに春に花粉を飛散するハンノキ(カバノキ属)にアレルギーを持つ人がリンゴを食べると口のイガイガをはじめとしてアレルギー症状を引き起こすという状態があり、これはハンノキのもつコンポーネントとリンゴの持つコンポーネントが構造として似ているため、ハンノキのコンポーネントに反応するIgEがリンゴのコンポーネントにも結合してアレルギー症状が出てしまうためと言われております。ただこのリンゴのコンポーネントは熱で変性してしまいますのでアップルパイであればアレルギー症状は出ないということも分かっております。

これらのコンポーネントに関する新たな知見がどんどん明らかにされていくことで病態の新たな解明や治療の多様化に繋がる可能性が言われており、当院でも春にアレルギーを有する方のアレルギー検査(RAST検査)にはハンノキ花粉を加えております。今回はやや専門的な話になってしまいましたが、気になる方は一度ご相談ください。

2019.10.28

インフルエンザワクチンの進化

「インフルエンザワクチン打ったのに家族全員かかったわ・・ホンマに意味あるんかな・・」こういう声も未だ聞かれる現状ですが、そんな中でも毎年この季節になると各病院や診療所でインフルエンザワクチン接種が始まります。僕が子供の頃はワクチン接種が学校で義務化されており、皆一列に並んで嫌々ながらワクチンを打たれていたものでした。詳しくは昭和51年から学童へのワクチン接種が義務化され、その後「ワクチンの効果」が疑問視され平成に入った頃には義務化から準義務化となりました。さらに平成6年には学校での集団接種はなくなり、それ以降は事実上の任意接種となり接種件数は激減する経緯を辿るのですが、この「ワクチンの効果」が疑問視された最大の理由は冒頭の声のように打ったのにインフルエンザにかかるという事実が、ワクチンが効いてないという「誤解」を与えてしまったせいだと言われております。

これがなぜ「誤解」かと言いますと、現状のワクチンはインフルエンザにかかった後の症状を和らげる為のものであり、決して予防では無いからなのです。ただ、症状を和らげる効果は科学的にも検討されており、平成6年以降に学童の集団接種が廃止された後に高齢者のインフルエンザ関連死が増えたこともインフルエンザワクチンの効果(症状の重症化を避けるという点)を裏付ける歴史的事実とされております。

では、なぜインフルエンザワクチンが感染予防ではなく症状緩和にしか効果がないかということですが、それは現状のワクチンが不活化ワクチンであり「血中の免疫」を上げる働き、いわゆる血中のインフルエンザ抗体を強化する効果しかないという点です。インフルエンザが感染するのはくしゃみや接触によるもので、ウィルスが目鼻や口の粘膜に侵入することで感染していきます。その後感染が成立すると遅れてインフルエンザ抗体が産生されて「血中の免疫」が作られていくのですが、感染の予防効果を目指すのであれば、感染が成立する前の粘膜の部分でウィルスをやっつけるいわゆる「粘膜の免疫」の強化が必要です。加えてこの「粘膜の免疫」はインフルエンザの型(A型・B型など)を超えて効果があるとされている点も従来の不活化ワクチンよりも優れているとされています。

近年、この「粘膜の免疫」を上げるインフルエンザワクチンの開発も進んでいます。いわゆる経鼻ワクチンと言われるもので、鼻から生ワクチンを散布して擬似感染状態を作り出して免疫を誘導するメカニズムです。日本では未承認であるものの欧州や米国では先行使用されており、従来の不活化ワクチンよりもメカニズムの上では効果は高いとされ、専らその感染予防効果に関しては一目置かれております。ただし、日本で未承認である理由として免疫反応が弱い高齢者にはうまく免疫がつかずに効果がないとされている点や生ワクチンであるがゆえに保存状態でその効果に変動があり、中々うまく免疫が獲得できないという報告も多くその効果が疑問視されている点が挙げられます。ただ、医学は日進月歩ですので感染メカニズムをさらに詳細に解明していくことで、免疫反応が弱い高齢者も含めしっかり免疫が獲得できるような経鼻(経口)ワクチンの開発が進められている現状です。

「インフルエンザワクチンをしたから、我が家はインフルエンザ知らず」そんな時代も近いかもしれません。

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