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2022.09.25

コロナ感染のち、舌の異常

コロナ感染(COVID-19)が世に出て2年半が経ちました。ウィルスの変異は続くものの、その特性は概ね把握されつつあるのか欧米では共存・共生の生活様式が定着し諸規制が撤廃されつつあり、日本にもその流れが届きつつあります。国内での規制緩和にはまだ議論があるでしょうが、感染し回復された方も散見されてきており、このウィルスが「common disease(一般的な病気)」となり「common cold(風邪)」に近づきつつあるのかもしれません。ただ、インフルエンザのような専用治療薬が汎用化していない以上は高齢者や免疫弱者は重症化の危険を伴いますので、引き続き感染予防に努めることは大切です。

患者さんの中にもコロナウィルスに感染してからの不調を訴える方も増えてきており、その中でも特に舌の異常である「味覚異常」と「舌の違和感」を訴える方が多い印象です。

「味覚異常」は舌そのものの味覚を司る細胞がやられてしまうこともありますが、嗅覚が障害を受けて味覚が鈍ってしまうということもあります。味の決定は実は嗅覚に頼っているところが多く特に口から鼻に戻ってくる風味がなくなると味がおかしいと錯覚してしまうとも言われております。人が鼻呼吸であることを考えると、飛沫によりまず鼻で感染がおこり、ウィルスによる嗅覚障害が先行して味覚が鈍っていることも味覚異常の原因として重要です。また、コロナ等ウィルス感染は全身疾患ですので倦怠感や食欲不振で低栄養が続くこともあります。このことが必要微量元素の一つである亜鉛の不足をもたらし、これが味覚障害につながることもありますので、感染後より食が細くなった方は亜鉛不足も考えなければなりません。

「舌の違和感」というのは、細かく聞くと「味覚はあるが舌が何かおかしい」または「舌が痛い・ピリピリする」という訴えで来られることが多い印象です。病み上がりという言葉があるように感染後は免疫が正常化しておらず違うウィルスに感染したり細菌による混合感染を引き起こしたりしやすいですのでそこで真菌(カビ)などの通常の免疫ではかかりにくいような舌の感染症を引き起こしてしまう可能性もあります。さらには舌全体が焼けるように痛くなる口腔内灼熱症候群(Burning Mouth Syndrome)やその一つのタイプとされている舌痛症がコロナ感染をきたした患者さんによく見られているという報告も最近上がってきております。これらは脳や脊髄に原因がある顔面痛の一種で、舌に痛みをきたしうる様々な病気がないことで診断される病気です。言いかえれば、病態として不確定なことが多く心身症的な側面があるのですが、ウィルス感染後に抑うつや精神不安を訴える方も多く、舌の違和感に何らかの影響をきたしている可能性は高いと考えられます。

これら舌の異常はウィルス感染全般に共通することでもあり、コロナパンデミックが世に出る前にもそのメカニズムは言われておりました。ただ、コロナ感染でより多く事例が上がってきていることはこのウィルスの感染力や重症化のリスクが従来の風邪ウィルスより高いから、すなわち人類が新たなウィルスに対して免疫を持っていないことが要因なのでしょう。しかし、共存するために新たな免疫を獲得し、それによる後遺症についても一つ一つ紐解いていかなければ前へは進めません。新たな知見に期待しつつ可能な限り臨床の現場で生かせていければと考えております。

2021.01.21

扁桃腺、とったら風邪をひきやすい?

厳しい寒さが続く中、例年この時期はインフルエンザの患者さんが多いのですが、今年はコロナの影響でマスクや手指消毒が習慣化している影響でしょうか、インフルエンザは大幅に減っている現状です。インフルエンザやコロナなどはウィルスの感染ですが、同じ発熱や喉が痛くなる症状をもたらす細菌の感染に扁桃炎があります。口の奥の両側にある扁桃腺の中で細菌が増殖する病気ですが、悪化すると細菌が喉の深部に入り、さらに重症化すると血液中に細菌が入り込み致死的な病態になりうることもあります。

抗生剤の恩恵がある現代では扁桃炎で重症となることは稀になりましたが、抗生剤が行き渡る以前は重症の扁桃炎の治療には外科的切除が施されていました。その歴史は古く、紀元前1世紀の古代ローマ時代には扁桃腺手術の詳細が記されております。日本でも20世紀初頭から半ば過ぎまでは、子供は扁桃腺が大きい(扁桃肥大)だけでとった方がよいとされていた時代があり、耳鼻科外来で椅子に座ったまま扁桃腺をとる手術が日常的に行われており、高齢者の方で幼少期にその経験のある方は苦い思い出として残っているかもしれません。扁桃腺は局所麻酔手術だと、咽頭反射(えずき)のコントロールが難しい上に圧迫止血が十分に行えないために安全な手術を行うことが難しく、現在では全身麻酔下での手術が一般的となっております。

子供の扁桃腺手術の適応ついては現時点で基準は大きく2つあり、1つは繰り返す習慣性の扁桃炎があること、もう1つは扁桃肥大による重症の睡眠時無呼吸があることとなっております。習慣性の扁桃炎に関しては、我が国では年3−4回繰り返す扁桃炎とやや幅を持った感じで言われておりますが、米国ではより細かく規定されており、定期的な改訂も行われ、2019年の改訂版では手術の前にもう少し経過観察を要する方向へと切り替わってきております。さらに、同じ頃に扁桃腺免疫の常識に一石を投じる報告がオーストラリア・デンマーク・米国の共同研究から発表されており、その内容は、子供の時に扁桃腺をとったグループがとっていないグループに比べて上気道感染(いわゆる風邪)にかかるリスクが約3倍増加するというものです。長年、扁桃腺は子供の頃にとってもその後の免疫機能に異常をきたさないとされておりましたが、術後長期間にわたって手術の影響を追ったデータが存在しておりませんでした。今回この報告が初の長期データ(術後10年から30年の経過を追ったデータ)をまとめたものとなり、長い期間で見た場合、扁桃腺をとることが将来の免疫機能の低下に繋がる可能性が示されたということになります。本当にその子供の扁桃炎が習慣的なもので治りにくいものなのか、その見極めをもう少し慎重にすべきであるということになります。

もう1つの手術適応である扁桃肥大に関して、よく保護者の方から「どうして起こるのか?」という質問をお受けします。経験的に両親からの遺伝の可能性は言われてきておりますが、最近の知見ではモラキセラ・カタラーリスという細菌が扁桃肥大に寄与していること、特定の遺伝子(Beta-defesin 1)が扁桃肥大に関与している報告があがっております。総じて、扁桃肥大は遺伝的な側面はあるものの、適切な消炎が大切と考えますので、扁桃腺内に細菌感染の基地(コロニー)を作らせないために、炎症を長引かせないよう早めの対応が要です。

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