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2025.05.27

ひょっとこ顔と顔面神経の病

新緑みなぎる季節となりました。世の中は令和の米騒動と言わんばかりに米不足となっておりますが、田植えの季節でもありますので、米作りを担っている農家の方に感謝しつつ米不足解消に歯止めが掛かるよう豊作を願いたいところです。豊作祈願にちなんでですが、日本では古来より様々な形があり、その一つとして田植えの時期にひょっとこなどのお面を被って滑稽な踊りをするというものがあり、辛い田植え作業を楽しく、励まし合って乗り切る農耕儀礼と言われております。このひょっとこですが、一説にはその語源がかまどの火を火吹き棒で吹く「火男(ひおとこ)」が訛ったからだとか。それゆえに口を窄めており、左右の目の見開きに差があるのは火の煙が目に入ったゆえにというのですが、非常に興味深いものです。

実はこのひょっとこ顔、顔を動かす顔面神経の不調でそうなってしまう病気があります。具体的には「顔面神経麻痺」と「顔面痙攣」という病気で、病名も何となく似ているのですがその病態は異なります。

顔面神経麻痺は、中枢(脳内)と末梢(脳から出た後)の神経麻痺に区分されるのですが、ひょっとこ顔になるのは末梢の方です(末梢性顔面神経麻痺といいます)。正確には、神経麻痺の後遺症で意図せず表情筋が動く状態(病的共同運動といいます)になると顔を動かした時にひょっとこのような表情になります。末梢性顔面神経麻痺の原因はヘルペスなどのウィルス感染が関係していると言われており、ウィルス感染により神経が腫れてしまい、腫れそのものや腫れによる血流障害から神経線維がやられてしまい神経麻痺に至ります。治療の第一選択は腫れを抑える作用が強いステロイドの点滴ないし内服での保存的治療となります。それでも改善が見込めない場合は手術も選択肢になりますが、1ヶ月以内の早期でないと手術治療効果が乏しいことから手術の時期やその是非は未だ議論が残る現状です。近年では、鼓膜の奥の空間(鼓室)に顔面神経の一部が走行していることから、高濃度のステロイドを顔面神経に直接浸透させるというやり方(ステロイド鼓室内注入)も保存的治療の上乗せ効果が期待できるという報告も散見されており、当院でも積極的に取り入れております。

顔面痙攣というのは文字通り、顔面の表情筋が痙攣を起こす状態で通常は片側です。痙攣が高度かつ持続的になると表情筋が釣りあがり続けるためひょっとこ顔になってしまいます。こちらは中枢と末梢の境界領域で顔面神経が血管の圧迫を受けるために神経の異常興奮が起こってしまう病態です。顔面神経以外にも血管の圧迫を受けてしまう神経があり「神経血管圧迫症候群」とも言われます。知覚を司る三叉神経、聞こえを司る蝸牛神経、めまいを司る前庭神経が圧迫リスクを抱える主な神経となります。圧迫され続けると、三叉神経なら顔面片方の痛み(病名:三叉神経痛)、蝸牛神経なら片側の難聴と繰り返す耳鳴り(病名:一側性耳鳴・難聴)、前庭神経なら繰り返すめまい発作(病名:前庭発作症)、と出る症状は様々ですが、病態は同一です。治療は神経の異常興奮を抑える向精神薬の一つがよく効きますが、内服の効きが弱く日常生活を脅かすレベルとなれば神経と血管の圧迫を解除する手術も治療選択の一つとなってきます。

ひょっとこは、その表情が火吹きという辛い仕事を一生懸命に行う時に生じることから、辛い仕事を一手に引き受けてくれる象徴、また火を吹き続けるということから、火を絶やさず守るものという側面を持っているとされ、火の神様として扱われている地方もあるようです。神様にあやかるのは恐れ多いですが、ひょっとこの精神をもって、辛いことを厭わず臨床への向上心の火を絶やさぬよう努めねばと思う次第です。

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