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2020.09.10

耳鳴(じめい)の理

人は太古の昔より耳鳴りに悩まされており、最古の記載は紀元前1500年頃のパピルスに書かれた古代エジプトの医書に見られるとも言われております。当時は耳鳴りを有する耳は「魔女に取り憑かれた耳」とも言われており、葦の茎を用いて直接耳の中に樹液・樹脂・ハーブなどを混ぜた特性オイルを注入して治療されていたようです(かなり痛そうです・・)。またラテン語の繰り返す音を意味する「tinnire」が現在の耳鳴り(tinnitus)の語源という説もあるように、いかに人類がこの繰り返す耳の中で鳴る音に悩まされてきたかということですが、現在に至っても耳鳴りを完全に消すことは難しく、「耳鳴りの治療薬を開発したらノーベル賞クラス」と言われるほど多くの人々はこの耳鳴りに苦しんでおられます。

腫瘍や炎症などのケースを除いて多くの耳鳴りは難聴を伴っており、鼓膜の奥の内耳という場所に存在する音受容器や脳の聴覚を処理する聴覚野において、その刺激が無くなることで耳鳴りは起こると言われています。一般的に、年齢による難聴の進行や騒音による難聴は内耳の音受容器の細胞が変性・消失することよって起こりますが、内耳で障害が起こると当然脳にも刺激が届かなくなるわけで、その際に刺激を失った脳の聴覚野にある神経細胞が刺激を求めて非聴覚野へ神経が伸びていくことが耳鳴りと深く関係していることが最近の研究で分かってきております。

このメカニズムを逆にとれば、脳の聴覚領域に入ってこなくなった音刺激を、再度入れてあげれば、脳の神経細胞は刺激を求めて非聴覚野へ神経を伸ばさないようになるというわけです。事実、補聴器やTRTTinnitus Retraining Therapy:特定の音のみを与え続けることに特化した耳鳴り順応療法)、さらには人工内耳といった失われた音を取り戻す人工聴器など耳に音を入れる状況が、耳鳴りを軽減したという報告が多数あります。米国の耳鼻咽喉科学会が長年の耳鳴り治療の莫大なデータをまとめ、2014年に治療に対する一定の評価を示しており、そこでも難聴を伴う耳鳴りに対しては補聴器は推奨治療として、TRTを含む音を入れる「音響療法」は一定の効果のある治療として評価されております。補聴器や「音響療法」の他には精神・心療内科領域の治療であるカウンセリングや耳鳴りへの注意をそらすトレーニングを含む「認知行動療法」も推奨治療とされており、「生活に支障が出る状況」を「生活に支障が出ない状況」にするという意味でも効果は高いとされております。

その他の治療、いわゆる内服を含む薬物療法やマッサージなどは残念ながら科学的根拠に乏しい耳鳴りの治療ということになります。ただ実際には、それらが効いたという方も少ないながらもおられますので一概に無効とは言えないのですが、近年の研究でそれらのメカニズムもだんだん明らかになってきています。一例を挙げれば、難聴を伴わない耳鳴りの一つに体性耳鳴(皮膚感覚並びに顎関節や首の筋肉の感覚といった体性感覚の不調による耳鳴り)と呼ばれるものがあり、脳幹(脳の中枢)にある体性感覚のコントロールセンターと聴覚の伝導を中継する部分との間で新たな神経の伸長が出来上がってしまうことで、耳鳴りが発生するメカニズムが言われてきております。こういうケースでは顎関節や頸部のマッサージで体性感覚のコントロールセンターに刺激を与えることが耳鳴りの抑制に有効であるという報告も上がってきており、マッサージも病態によっては有効といえる可能性を示しております。 

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